乾田直播 技術マップ / 工程別 技術ポイント解説 / 入水・水管理
技術ポイント解説 ⑤/⑦ FLOODING & WATER MANAGEMENT

入水・水管理
― 稲1.5葉期、「畑」から「水田」へ切り替える

乾田直播の水管理は「乾田期=徹底排水」と「入水後=湛水管理」の二部構成。切替の合図は稲1.5葉期です。 最初の水入れは浅く(深水は幼苗を枯らす)、以後は湛水そのものが最大の除草手段になります。生育期間の落水は原則不要——移植とは水の考え方が根本から違います。

★ 最重要 ⚠ 失敗リスク 💡 コツ 📄 出典SOP
水管理の基本線:乾田期は水尻開放で表面排水を徹底(過湿は出芽の敵)→ 稲1.5葉期で入水(浅水から段階的に)→ 出穂までやや深め水深5cm → 出穂後30日まで間断灌漑 → 落水。中干しは原則不要(過剰生育時のみ)。前提条件は日減水深2cm/日以下——これは①整地(鎮圧・均平)で作り込む値です。
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乾田期の排水管理

💡 「乾かす」が仕事
標準:播種〜出芽の乾田期は水尻を開放して表面排水を徹底。降雨後に滞水させない。暗渠は開けておく(潤土管理時のみ閉じる)。
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効く理由乾田期の滞水は出芽不良・湿害の主因。種子は酸素を必要とし、1週間以上の水没で幼苗は枯死する。乾いた圃場は地温も上がりやすく出芽が揃う。📄 大潟村 SOP25-206
⚠
ありがちな失敗降雨後の水たまり放置→部分的な出芽ムラ・浮き苗。逆に極端な乾燥でクラスト(表面硬化)→出芽停滞。
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コツ(潤土管理=例外の「湿らせる」)出芽停滞・クラスト時だけは逆に水尻・暗渠を閉じて薄水を全面に行き渡らせ、表層を柔らかくして出芽を促す(軽度3〜4日、強い停滞で約1週間)。②播種ページの「出芽不良リカバリ」と同じ手順。📄 庄内 SOP25-207
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入水のタイミング(核心)

★ 最重要
標準(東北SOP):入水(湛水開始)の目安は筋状出芽がそろった稲1.5葉期以降。東北の実績は5月中旬〜6月上旬。カモ等の食害が予想される圃場は2.3葉期まで待つ。
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効く理由早すぎる入水は幼苗の水没枯死・根腐れ、遅すぎると雑草の二次発生と生育遅延を招く。1.5葉期なら苗が水に耐えられ、かつ湛水の雑草抑制を早く効かせられる。入水はひたひた→浅水→湛水と段階的に。📄 東北版 SOP19-002
⚠
ありがちな失敗一気に深く入れて苗を水没させる(1週間以上の水没で枯死)。第1段除草(茎葉処理)の前に入水してしまい薬剤選択が狭まる——除草体系(④)との段取り整合が必須。
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地域差に注意本サイトの基準(東北NARO方式)は1.5葉期。ただし関東のSOP(茨城・栃木等)は稲3〜4葉期を入水目安とする体系もあり、栽培計画ツールは関東準拠で3〜4葉表示。自地域のSOPの葉齢基準を必ず確認。
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湛水管理 — 出穂まで、そして登熟へ

💡 落水は原則不要
標準:草丈10cm以上になったら出穂までやや深めの水深5cm。日減水深2cm/日以下を維持。出穂後30日まで間断灌漑(新潟は飽水管理)→落水。WCS用は7月下旬落水。
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効く理由湛水は雑草抑制・温度緩衝・養分可給化の三役(→水分生理)。乾直は地表が硬く根が浅く張るため耐倒伏性が強く、移植のような早期落水が不要。一発剤の処理層も水が守る(散布後3〜4日完全止水)。📄 東北版 SOP19-002
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中干しの扱い乾直は中干し原則不要。実施するのは過剰生育(濃い葉色・過剰茎数)が見られたときだけ——良食味品種で基肥が効きすぎた場合は最高分げつ期前に落水して倒伏回避。判断は⑥生育診断で。
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コツ過湿時は溝切り、過乾燥時はフラッシング(走り水)で微調整。水口・水尻・畦畔の漏水点検は入水直後に一巡。日減水深が2cmを超える圃場は①整地(追加鎮圧・畦畔ベントナイト)に立ち返る。
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深水・冷害対応 — 水は保温材

⚠ 減数分裂期
標準:減数分裂期(出穂前10〜15日・幼穂長1〜2cm)に低温(日平均20℃・日最低17℃以下)が予想されたら、水深15〜20cmの深水で幼穂を保温する。
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効く理由幼穂は水面近くにあり、実際に効くのは気温より水温。低温が2〜3日以上続くと障害不稔(障害型冷害)が発生するため、深水が唯一かつ最大の回避策。東北・山間部では毎年の必須チェック。📄 生理ページ/全農Q&A
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コツ幼穂長1〜2cm(=減数分裂期)の把握が前提——⑥生育診断の幼穂長調査とセットで運用。週間予報で最低17℃を切る予想が出たら先回りで水位を上げる。
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地下灌漑(北海道方式)

💡 苗立ち安定の切り札
標準(北海道):日平均気温12℃以上で地下灌漑を開始し、地表面が湿る程度に地下水位を上昇。出芽始期まで地下灌漑→出芽後に湛水へ移行。浅水目安3cm。
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効く理由FOEAS(地下水位制御システム)や集中管理孔で下から水分を供給すると、表面のクラストを作らず出芽期の水分を安定確保できる。寒地・泥炭土での苗立ち安定化の切り札で、移植を上回る606kg/10aの実証も。📄 北海道版 SOP20-110
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導入の目安集中管理孔(補助孔なし)はサブソイラ・弾丸暗渠を2m間隔で密に施工、水閘−5〜−10cm。FOEAS未整備でも暗渠+水位管理の工夫で近い運用は可能。本州でも基盤整備圃場では検討価値あり。

9地域 入水・水管理の作り分け

入水の合図(1.5葉期)は共通、開始時期と方式が地域で変わります。

地域入水目安湛水開始 実績(2024)特徴
東北地方版(基盤)稲1.5葉期(カモ食害時2.3葉)—浅水→湛水5cm・落水原則不要・過剰生育時のみ中干し
宮城 石巻1.5葉期5/10〜6/6出穂後30日間断灌漑→落水・WCSは早め落水
宮城 美里涌谷大崎1.5葉期5/20〜6/6地域目安5月下旬〜6月頭
宮城 大崎1.5葉期5/20〜5/27(幅が狭い)新体系は入水直前基肥→即入水(③施肥と連動)
岩手 花北・奥州1.5葉期5/20〜6/7WCSは7月下旬落水
山形 庄内1.5葉期6/5(事例)潤土管理(出芽停滞時の薄水リカバリ)を手順化
新潟 下越1.5葉期(茎葉処理後)5/21〜5/28出穂後25日まで飽水管理→落水
秋田 大潟村1.5葉期5/18〜6/12乾田期は水尻開放で表面排水徹底
北海道(空知)地下灌漑12℃→出芽後湛水—FOEAS/集中管理孔・浅水3cm・日減水深2cm以下

水管理タイムライン

「乾かす→入れる→保つ→(守る)→切る」の流れ。合図はすべて稲の生育ステージです。

播種〜出芽
稲1.5葉期
〜出穂前
減数分裂期
出穂〜+30日
収穫前
水位
乾田(排水徹底)
浅水→
湛水5cm
低温時 深水15-20cm
間断灌漑
落水
連動する管理
一発剤→止水3-4日

※ 中干しは原則なし(過剰生育時のみ最高分げつ期前に落水)。WCS用は7月下旬落水。出芽停滞時のみ潤土管理(乾田期の例外運用)。

現場 判断チェックリスト

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乾田期:水尻開放・暗渠開で滞水ゼロか。降雨後の水たまりを放置していないか。
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入水の合図:筋状出芽がそろい稲1.5葉期に達したか(鳥害圃場は2.3葉まで待つ)。地域SOPの葉齢基準(関東は3〜4葉)を確認したか。
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除草との段取り:茎葉処理(④第2段)を済ませてから入水したか。一発剤散布後3〜4日の完全止水を確保できるか。
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入水は段階的:ひたひた→浅水→湛水。幼苗を水没させていないか(1週間水没で枯死)。
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日減水深2cm/日以下か。超える圃場は追加鎮圧・畦畔補修(①整地)へ。
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減数分裂期の低温予報(日最低17℃以下)が出たら深水15〜20cmへ。幼穂長1〜2cmの把握(⑥)とセット。
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落水:出穂後30日の間断灌漑を経てから。早期落水は不要(乾直は耐倒伏が強い)。
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