環境制御の優先順位:なぜこの順番なのか
光合成は複数の環境要素に律速される。最も不足しやすい要素から順に整えるのが効率的で、その順番が「光 → 温度 → CO₂ → 飽差」。光が足りなければCO₂を増やしても光合成は伸びない。まず光を確保し、次に光合成が進む温度域に整え、その上でCO₂を施用し、最後に飽差(湿度)を最適化する。
① 光の制御
光合成と光の強さ
イチゴの光合成が最大となる光の強さは2万〜3万ルクス程度。これを超える強光は光合成を増やさず、むしろ果実温度上昇・果皮のヤケ・株消耗を招く。
- ☀️遮光:強光・高温期に遮光カーテンで2〜3万ルクスに調整(高温対策ページ参照)
- 💡補光(電照):日照不足時・四季成り性の花成促進・一季成り性の休眠打破に使用
電照(補光)の役割
| 四季成り性 | 長日条件を作り花成を促進(16時間日長等) |
| 一季成り性 | 花芽分化後の休眠打破・促成 |
| 光源 | 白熱球・蛍光灯・LED |
| 省エネ運用 | 電照時間延長は変温管理と組合せで省エネ効果 |
② 温度の制御と変温管理
基本の温度管理(促成・高設の例)
| 時間帯/場面 | 設定温度 | 担う設備 |
|---|---|---|
| 日中(光合成時間) | 23〜25℃前後(換気開始28℃) | 天窓・側窓・換気扇 |
| 夜間(前半) | 転流促進のため一時的に高め | 暖房機 |
| 夜間(後半・最低夜温) | 5〜8℃まで下げる(変温管理) | 暖房抑制 |
| 早朝 | 13℃程度へ立ち上げ | 暖房機 |
| 根域温度 | 夜間10℃→早朝15℃ | 培地冷温水循環 |
変温管理による省エネ(重要)
ハウス全体を一定温度で加温し続けるのは燃料の無駄が大きい。夜温を時間帯で変化させる変温管理と、植物体だけを温める局所加温を組み合わせることで、品質・収量を落とさず化石燃料を大幅削減できる。
40%↑
変温管理による
化石燃料削減(岐阜農技セ)
化石燃料削減(岐阜農技セ)
クラウン局所加温:電熱線や温水チューブをクラウンに接触させ21℃前後で直接加温。ハウス全体の暖房設定温度を下げても草勢を維持できる。空間を温める無駄を省き暖房経費を削減(福岡農総試・農研機構)。
高設栽培は栽培槽が空中にあるため培地温度が下がりやすく、土耕より3〜5℃高い設定(8〜10℃)で加温されがち。だからこそ局所加温・変温管理による省エネ効果が大きい。
③ CO₂施用
なぜCO₂施用が必要か
密閉したハウスでは、晴天日の日中に光合成でCO₂が消費され、大気の400ppmを下回って光合成速度が低下する。CO₂発生機や燃油暖房機の排ガス利用で補う。
- 📊目標濃度の一例:群落内 800ppm(局所施用)
- ⏰施用時間帯:日の出後〜夕方(光合成が行われる時間)
- 🌬️換気中も施用を継続するケースもある
局所CO₂施用(省コスト技術)
ハウス全体ではなくイチゴ群落内(地上1m付近)に直接CO₂を供給することで、少ない施用量で増収効果を得る技術。農研機構九州沖縄農研が開発し自家施工も可能。
局所施用は全体施用より燃油使用量を削減しつつ増収を両立できる。CO₂濃縮ボックス・送風機・施用チューブで構成。
④ 飽差(湿度)の制御
飽差とは「空気があとどれだけ水蒸気を含めるかの余地」。乾燥しすぎ(飽差大)だと植物は気孔を閉じてCO₂を取り込めず光合成が低下する。逆に多湿(飽差小)すぎると蒸散が止まり病害リスクが上がる。
湿度を上げたいとき(乾燥時)
- 💧微粒ミスト・細霧装置で加湿
- 💧通路への散水(高設栽培で有効)
愛知農総試の試験:相対湿度70%程度を維持すると「ゆめのか」で18%増収。微粒ミストで乾燥期の湿度を補う効果が確認された。
湿度を下げたいとき(多湿時)
- 🌬️換気扇・天窓で換気
- 🔥加温機で温度を上げて相対湿度を下げる
多湿は灰色かび病・うどんこ病の温床。特に夜間〜早朝の結露を防ぐ換気・除湿が重要。
環境制御の設定値まとめ(運用早見表)
| 要素 | 目標値の目安 | 主な制御設備 | 外れた時のリスク |
|---|---|---|---|
| 光 | 2〜3万ルクス | 遮光カーテン・電照 | 強光:果皮ヤケ/不足:光合成低下 |
| 日中温度 | 23〜25℃(換気28℃) | 換気・循環扇 | 高温:花芽抑制・奇形果/低温:生育停滞 |
| 最低夜温 | 5〜8℃(変温管理) | 暖房機・局所加温 | 高すぎ:燃料浪費・徒長 |
| 根域温度 | 夜10℃→早朝15℃ | 培地冷温水循環 | 低温:冬季の生育遅延・収量低下 |
| CO₂濃度 | 群落内800ppm目安 | CO₂発生機・局所施用 | 不足(400ppm未満):光合成低下 |
| 相対湿度 | 70%前後 | 細霧・換気 | 乾燥:気孔閉鎖/多湿:病害 |
週次チェックリスト(環境制御)
⚠ 要確認サイン
- !晴天日昼にCO₂が400ppmを下回っている
- !夜間に結露が多く灰色かび病が出ている
- !暖房費が想定より大幅に高い(変温管理見直し)
- !果皮ヤケ・果実温上昇が見られる(遮光不足)
- !冬季に生育が遅い(根域温度の確認)
✓ 正常運用サイン
- ✓日中の光合成時間帯にCO₂が維持されている
- ✓換気・遮光で日中30℃以下を保てている
- ✓変温管理で夜温が適切に下げられている
- ✓相対湿度70%前後を維持できている
- ✓センサー値が記録・確認できている