設備・環境制御 / 養液供給

自動潅水施肥システム
給液装置・EC/pH・日射比例・排液管理

高収量と低収量を最も分けるのが潅水施肥の運用。給液装置がどう養液を作り供給するか、EC・pHをどう管理するか、日射比例制御と排液率管理で「少量多潅水」をどう実現するか。設備の仕組みと運用ノウハウを体系化する。

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給液装置の仕組み(EC制御方式)

標準的な給液装置は、原水と濃厚肥料原液を混合してEC(肥料濃度)を制御し、ポンプで点滴チューブに圧送する方式。混合タンク内のEC測定値が設定値になるよう原液の注入量を自動調整する。

給液装置の構成(EC制御・2液式の例) 原水 (水道/井水) A液 硝酸Ca系 B液 リン酸系 pH調整液 硝酸/リン酸(ダウン) 混合タンク 撹拌ポンプ EC/pHセンサー 設定ECになるよう 原液注入量を自動調整 圧送 ポンプ 電磁弁 バルブ 点滴 チューブ 日射センサー → 給液タイミング制御 積算日射量に応じて自動潅水(日射比例制御)
1液式と2液式:原液タンクが1個(1液式)はシンプルだが、硝酸カルシウムとリン酸・硫酸系を混ぜると沈殿(結晶)が生じるため、2液式(A液=硝酸Ca系/B液=リン酸系)に分けて混合直前に合流させる構成が一般的。pH調整液は専用タンクまたは適切な原液タンクへ投入する。

潅水管理:少量多潅水と排液率

少量多潅水が基本

1回にたっぷり与えるのではなく、少量を1日複数回に分けて与える。培地の水分を安定させ、根に酸素を供給しつつ肥料ロスを抑える。点滴チューブで全株に均一供給することが前提。

1株1回あたり給液量約100cc(50〜100ml)
1日の給液回数3〜7回(季節・生育で調整)
開始時刻日の出の1〜2時間後
終了時刻日の入りの3〜4時間前

排液率による管理

排液率(%)= 排液量 ÷ 給液量 ×100。給液が適量かを判断する最重要指標。多すぎれば肥料ロスと根張り低下、少なすぎれば灌水ムラと塩類蓄積を招く。

30%
排液率の目標目安
  • 乾きやすい9〜11月・3月以降:排液率をやや高め
  • 過湿になりやすい12〜2月:排液率をやや低め
培地水分の過不足サイン 乾燥気味:果実の張り低下・種浮き果・チップバーン・ガク焼け/過湿気味:根が呼吸できず上根化し、毛細根が減少して深く根を張れない。

日射比例制御(自動化の要)

植物の蒸散量は日射量にほぼ比例する。そこで積算日射量が一定値に達するごとに自動で潅水するのが日射比例制御。晴天日は潅水回数が増え、曇天日は減る——植物の要求に追従した少量多潅水が自動で実現する。

制御方式の進化

方式特徴
タイマー制御時刻固定。シンプルだが天候に追従しない
日射比例制御積算日射で潅水。天候追従・少量多潅水を自動化
培地水分センサー連動実測水分で潅水。最も精密(AI制御の例も)
ラフなタイマー潅水は給液量・排液量がともに多くなり肥料ロスが発生しやすい。日射比例制御や排液率管理、培地水分センサー連動により、必要量だけを供給する自動化が普及している。

pH管理:給液pHで培地pHを整える

重要なのは給液pHそのものではなく培地のpH(=排液pH)。適正は5.5〜6.5。培地pHを目標に保つよう給液pHを調整する。

pH 5.5未満
K・Ca・Mg吸収低下
果実肥大低下・チップバーン・ガク焼け
極端な低pHでMn過剰
適正 5.5〜6.5
養分バランス良好
pH 6.5超
リン酸・鉄・Mn吸収低下
葉の欠乏症状
培地pHの状態調整方法投入先タンク
高い(下げたい)pHダウン剤:9.8%硝酸液・85%リン酸液専用タンク or 原液タンク(リン酸液はリン酸系タンクへ)
低い(上げたい)pHアップ剤:苛性加里(水酸化カリウム)別途専用タンクが必要(原液タンクには投入不可)
リン酸液を硝酸カルシウム用タンクに投入すると結晶物が生じる。タンクの使い分けに注意。

EC管理:生育ステージで濃度を変える

給液EC = 原水のEC + 肥料成分のEC。肥料成分のECを生育ステージで段階的に変えることが、花芽分化・果実品質を左右する。

生育ステージ肥料成分EC目安狙い・リスク
定植〜第一次腋果房(2番果)の花芽分化まで0.4〜0.5窒素が高すぎると2番果の花芽分化が遅れる
第一次腋果房の花芽分化以降0.6〜0.7収量・品質優先。高すぎると乱形果・奇形果・先白/先青果・着色不良
食味を優先したい場合0.8〜1.0糖度・食味改善が期待できる(収量とのトレードオフ)

※とちおとめ・とちあいか・スカイベリー・やよいひめ・もういっこ・紅ほっぺ等の品種を想定した目安。品種・作型で調整する。

給液ECと培地ECの差で根の状態を読む

給液EC − 培地EC状態の解釈対応
0 〜 0.2正常(イチゴが順調に吸収)現状維持
培地ECが0.3以上低い肥料成分が不足の可能性葉色・樹勢を見て給液ECを上げる検討
培地ECが給液ECより高い根張り低下・培地乾燥・給液EC過高排液率30%以上でも高ければ根張りを確認し発根促進

培地のクリーニング(塩類蓄積対策)

給液を続けると培地に肥料塩類が蓄積し、排液ECが上昇する。定期的に水のみの潅水で培地を洗い流す(クリーニング)。

  • 🚿2週間に1度程度、水のみで潅水して培地をクリーニング
  • 📊排液EC値が原水EC値より0.2mS/cm以上高い場合や果実品質低下時は、2〜3日連続で実施
  • 💧クリーニング時はプランター・栽培槽からしっかり排水が出るまで行う

出典:青森県産業技術センター「青森農総研型いちご高設栽培ベンチ作製マニュアル」令和7年

運用早見表

管理項目目標値計測・調整手段
1株1回給液量約100cc給液装置の設定
1日給液回数3〜7回日射比例制御・タイマー
排液率30%前後排液量計測
培地pH(排液pH)5.5〜6.5給液pH調整(ダウン/アップ剤)
肥料成分EC(分化前)0.4〜0.5給液装置EC設定
肥料成分EC(分化後)0.6〜0.7給液装置EC設定
給液EC−培地EC0〜0.2排液EC測定
培地クリーニング2週に1回(水のみ)手動/プログラム潅水

週次チェックリスト(潅水施肥)

⚠ 要確認サイン

  • !排液率が30%から大きく外れている
  • !排液ECが原水ECより0.2以上高い(塩類蓄積)
  • !種浮き果・チップバーン・ガク焼けが出ている(乾燥)
  • !株間で灌水ムラがある(点滴チューブ詰まり)
  • !培地pHが5.5〜6.5を外れている
  • !葉に欠乏症状(pH不適・養分過不足)

✓ 正常運用サイン

  • 排液率が30%前後で安定している
  • 給液EC−培地ECが0〜0.2に収まっている
  • 全株に均一に給液できている
  • 培地pHが5.5〜6.5を維持
  • 生育ステージに応じてECを切り替えている
  • 定期的な培地クリーニングを実施している
出典:株式会社PsEco「イチゴ高設栽培の灌水管理と肥培管理」 / ゼロアグリ「イチゴの高設栽培(養液栽培)」 / 東海物産「養液栽培システム ネオサンアップ」 / 青森県産業技術センター「青森農総研型いちご高設栽培ベンチ作製マニュアル」令和7年 / ハンナ「いちご栽培のpH・EC計」